配偶者居住権で家を売れず老人ホーム入所が遅延。設定前に検討すべき対策3選

配偶者居住権で家を売れず老人ホーム入所が遅延。設定前に検討すべき対策3選
この件の結末

夫(享年75歳)が死亡。自宅4,000万円を妻(72歳)が住み続けるため配偶者居住権を設定し、所有権は長男・長女が取得。当初は順調だった。

5年後、妻が認知症を発症し老人ホーム入所が必要に。入所金1,000万円の捻出のため家を売却したくなったが、配偶者居住権が邪魔で買い手がつかない。長男・長女との消滅合意も金額交渉でもめ、ホーム入所が1.5年遅延、想定より低ランクの施設に変更。家の売却額も当初想定3,500万円→2,800万円に下落。

対策していた場合の結末

もし配偶者居住権ではなく、家族信託で家を信託財産化(受益者=妻) という設計にしていれば、妻の判断能力低下後も受託者(長男)が単独で売却決定でき、ホーム入所をスムーズに完了、売却額も4,000万円水準を維持できた。家族信託の設計費用は30〜50万円。

配偶者居住権は2020年4月施行の比較的新しい制度で、「妻が一生住める」という確実性は高い反面、民法1032条の譲渡禁止により売却の柔軟性が極端に低いのが弱点です。本記事では、配偶者居住権を設定する前に検討すべき3つの代替案を整理します。

よくある度
深刻度
予防可能度

概要 ── 配偶者居住権が老人ホーム入所を阻んだ

登場人物
  • 夫(享年75歳):会社員退職後、年金生活。
  • 妻(72歳→77歳・相談者):夫の死後5年で認知症発症。
  • 長男・長女:所有権を共有。母の居住権の消滅合意で対立。

配偶者居住権の仕組みと譲渡禁止

先生

民法1028条で創設された配偶者居住権は、配偶者の終身住居を保障する強力な制度ですが、同1032条譲渡禁止が明記されています。配偶者は権利を売れず、所有者も居住権付き物件を売ろうとすると価格が大幅に下落します。

居住権を消滅させる方法

民法1036条 居住権の消滅事由
  • 配偶者の死亡
  • 存続期間の満了(期間設定があった場合)
  • 配偶者と所有者の合意による消滅
  • 配偶者の用法違反等による所有者からの解除

結末 ── ホーム入所遅延と売却額700万円減

最終的な結果
  • 当初想定売却額:3,500万円 → 実際の売却額:2,800万円(差額700万円減)
  • 消滅合意の対価(妻→子へ):350万円
  • ホーム入所遅延:1.5年
  • 入所できた施設のランク低下による生活満足度低下

対策3選

対策1:配偶者が所有権を単独相続(代償分割)

妻が自宅の所有権を単独で相続し、他の相続人には預貯金で代償。柔軟性が最高で、後から売却・贈与・抵当権設定もすべて可能。ただし代償金の原資が必要。

対策2:家族信託の活用

家を信託財産化し、受益者=妻、受託者=長男とする家族信託契約を生前に締結。妻が認知症になっても受託者の判断で売却・処分可能。設計費用は30〜80万円。

対策3:賃貸借契約による居住

子が所有権、妻は月額1万円程度の名目家賃で賃貸借契約。家賃は子の家計補助として循環。施設入所時は契約解除でシンプルに退去できる。

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参考判例・条文

まとめ

この件のポイント
  • 配偶者居住権は「終身住居の保証」には強いが、売却の柔軟性ゼロ
  • 譲渡禁止により買い手がつかない
  • 消滅には配偶者と所有者の合意が必要、対価交渉でもめやすい
  • 施設入所の可能性を考えるなら家族信託 or 単独所有が有利

よくある質問

配偶者居住権とは何ですか?

2020年4月施行の制度(民法1028条)で、被相続人の配偶者が相続開始時に居住していた建物に、終身または一定期間住み続けられる権利です。所有権は子等が取得し、配偶者は居住権だけを得るため、相続税評価額を抑えつつ住居を確保できる仕組みです。設定には遺産分割協議書または公正証書遺言、家裁の審判のいずれかが必要です。

配偶者居住権を設定した家は売却できますか?

原則として売却困難です。配偶者居住権は譲渡禁止(民法1032条)のため、配偶者は権利を売却できません。家自体(所有権)を売却する場合も、買主は居住権付きの不動産を引き受けることになり、居住権分の評価減(市場価格の30〜50%減)が生じるため、現実には買い手がつきません。配偶者と所有者の合意で居住権を消滅させる必要があります。

配偶者居住権を生前に消滅させることはできますか?

できますが、配偶者と所有者(子等)の合意が必要です(民法1036条)。配偶者から所有者への放棄、または所有者からの対価支払いによる買取が一般的。ただし合意できないと家裁調停・審判に進む必要があり、合意金額の交渉でもめるケースが多発しています。施設入所など本当に必要になってからでは遅いことが多いため、設定前のシミュレーションが重要です。

配偶者居住権よりも有利な選択肢はありますか?

①配偶者が単独で所有権を相続(代償分割で他の相続人に金銭支払い)、②家族信託で家を信託財産化し受益者を配偶者にする、③子が所有権を取得し賃貸借契約で配偶者が居住、の3つが選択肢です。①は最も柔軟ですが代償金の用意が必要、②は信託契約のコスト(30〜80万円)はかかるが将来の売却・施設入所に強い、③は契約管理がシンプル。配偶者の年齢と健康状態で使い分けます。

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